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イベントレポート

あおいけあ流マネジメント〜世界が注目するケアの裏側にある一人ひとりがリーダーシップを発揮する組織づくりとは〜(KAIGO LEADERS FORUM 2019イベントレポート②)

特別講演
『一人ひとりがリーダーシップを発揮するためには』
登壇:加藤忠相(株式会社あおいけあ代表取締役)

KAIGO LEADERS FORUM 2019イベントレポート第2弾は、平成時代に新たな介護のスタンダードを築いたリーダーである、加藤忠相さん(株式会社あおいけあ代表取締役)の特別講演『一人ひとりがリーダーシップを発揮するためには?』をレポートします。

※KAIGO LEADERSの学びのプログラム【PRESENT】にて、加藤さんにお話いただいた際のレポートもあわせてご覧ください。
高齢者のお世話は介護じゃない。誤解だらけの「介護職」の本当の役割とは?

※KAIGO LEADERS×文京区 介護人材育成プログラム にて、加藤さんにお話いただいた際のレポートもあわせてご覧ください。
誰もが暮らしやすい地域社会のために。今、求められる介護職の在り方とは?

はじめに 加藤 忠相さんとは?

1974年生まれ。東北福祉大学社会福祉学部社会教育学科卒業。大学卒業後に横浜の特別養護老人ホームに就職。
3年後退職し、平成13年、25歳のときに株式会社あおいけあを設立。「グループホーム結」「デイサービスいどばた」の営業をはじめる。
平成19年より小規模多機能型居宅介護「おたがいさん」を開始。
平成29年4月「おとなりさん」開所。「地域との境を無くすため壁を壊す」「介護事業所だから行こうではなく、遊びに行きたいから行こうと思える場をつくる」等に挑戦している。
平成28年介護施設経営者として、NHK「プロフェッショナル~仕事の流儀~」に出演した。
日経ビジネス「次代を創る100人」や、Ageing Asia Global Ageing Influencer 2019(アジア太平洋地域の高齢化に影響を与えている最も影響力のある指導者)に選出され、世界各国で講演をしている。

 著作『あおいけあ流介護の世界』(南日本ヘルスリサーチラボ)

あおいけあとは?

神奈川県藤沢市で高齢者福祉サービスを提供。

「認知症になっても住み慣れた環境のもと、穏やかに年を重ねたい。」

「命ある限り自分らしく生き、一人の価値のある人間として存在したい。」そんな願いを実現できる、地域と密着したサービスを目指す。

様々なメディアに取り上げられ、国内にとどまらず国外からの視察も数多く来ている。
また、その取組みは漫画化されたり、映画のモデルとなったりした。
5月18日には、あおいけあのドキュメンタリー映画『僕とケアニンとおばあちゃんたちと。』が公開された。

映画の予告編をみると、あおいけあの雰囲気がわかるので、是非チェックしてみてください。

良い介護人材とは?KAIGO LEADERとは?

今回の講演のテーマである「リーダーシップ」について話しをする前に、そもそも「良い介護人材とは?」「KAIGO LEADERとは?」といった問いを投げかけました。

“資格を多く持っていれば質が高いのでしょうか?それともキャリアが35年とかあれば質が高いのでしょうか?”

“結局どこに行きたいというのが無いのに、勉強ばかりしている。結果、介護人材の質が上がらないと言われてしまっている現状があります。”

“今日は、KAIGO LEADERSですが、そもそも介護のリーダーとは何かという点を考えずに、一生懸命やろうとしていませんか?”

介護の仕事とは?

介護とは何を目的とした仕事なのでしょうか?介護保険法にはこう書かれています。

“(介護保険)第二条  第二項
 前項の保険給付は、要介護状態等の(軽減又は悪化の防止)に資するよう行われるとともに、医療との連携に十分配慮して行われなければならない。”

僕らの仕事について「要介護状態等の軽減又は悪化の防止」と書かれています。じぃちゃんばぁちゃんが元気にならないと、お給料をもらってはならないという状況に本来はなっているということです。

第四項にはこうも書かれています。  

“第一項の保険給付の内容及び水準は、被保険者が要介護状態となった場合においても、可能な限り、その(居宅)において、その有する能力に応じ(自立した日常生活)を営むことができるように配慮されなければならない。”

「その居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように配慮されなければならない」 ということですので、「デイサービスに行ってマシンに乗って筋肉隆々になって卒業です!」というのは介護保険の自立支援になっていません。なぜなら、それだけでは在宅に戻っても生活できないからです。その人が家で生活できるようになってはじめて自立支援になるのです。

そして、残念ながら人は100%死にます。こうなった時、最期まで寄り添うのが僕らの仕事です。

アップデートされていない“介護”

何でも介護職が手伝ってしまうのは、昔の「療養上の世話」です。1963年に制定された老人福祉法における介護の考え方です。

2000年介護保険制度がスタートし、「自立支援」、「尊厳を支える」、「地域包括ケアシステム」といった概念が次々に出てきて、最近は「地域共生」がテーマになっています。

制度がどんどんアップデートされている一方、19年前に出てきた「自立支援」の仕事すら、いまだに出来ていない介護事業所があるのはおかしいです。今やるべきケアをちゃんと仕事としてやらないといけないのです。

仕事の結果を出せているか?

あおいけあの利用者さんは、介護度がついて、認知症ですが、そういう風に見えません。誰も世話になっている顔をしていません。最初は大変でしたが、このような状況にするのが僕らの仕事です。

認知症があって、地域で孤立しているおばあちゃんも、元気になって、最終的には働く側にまわってくれます。認知症があったって、困ってなければただのおじいちゃんおばあちゃんです。

その状況をつくることを、ケアというのです。

楽な利用者ばかり集めていると言われますが、そうじゃない。歩けなくなる状態にならないよう努力をした結果です。

利用者は何でもかんでも出来ないと思い込むのはこちらの勉強不足です。例えば、実習生に漬け物の漬け方を教えることもできますし、私たちより遥かに安全に包丁を使えます。いかに、からだで覚えている記憶である手続き記憶を活かしてケアをするかが重要です。

レクで折り紙や塗り絵をやって何か改善しますか?好きでもないのにやっていたら、それは、言い方が悪いですが、死ぬまでのただの暇つぶしではないでしょうか。

その人が何をしたいのか?どういう生き方をしてきたのか?何に誇りを持っていて、どういう仕事をしてきて、何食べて生きてきたのか…等、情報を集めて、それらができる状況をつくっていき、その人の能力に頼ること、それが一番のケアにつながると思います。

あおいけあでは、要介護度の維持にとどまらず、改善するケースがあります。そして、悪化していません。我々の仕事は社会保障ですので、ちゃんと結果を出さないといけません

あおいけの利用者の要介護度の変化をまとめたもの

人が成長する組織をつくるには?

一人ひとりの介護職員がちゃんとしたケアをできるようにするためにはどのようなマネジメントが求められるのでしょうか。

介護事業所の多くは1日の流れがマニュアル化されています。

マニュアル化はサービスの平準化という効果はありますが、職員に失敗しないようプレッシャーを与えてしまいます。

この環境で人は育つと思いますか?

人間が成長する時って、失敗した時じゃないですか?

失敗してうまくいかなくて、試行錯誤するから成長するのです。ちょっと失敗すると、ヒヤリハット報告書や事故報告書を書かせるような、失敗もできないような環境では、人が育つわけはないと僕は思っています。

失敗してもリカバリーできる環境をいかにつくるのかというのが、人が成長する組織のつくり方です。

マニュアルではなくミッションで動くチームづくり

基本的には、マニュアルではなくミッションで動くチームをつくる努力をしています。

あおいけあにおいて、職員・リーダー・経営者はそれぞれどのような役割を担っているのかを説明します。

まず、職員は「考える」のが仕事です。情報を収集し、毎日更新していきます。そして、それをいかにデザインにつなげていくのか、考えてもらいます。その際、デザインできたものを実行できる現場があるのかが重要です。

次に、リーダーの仕事は、みんなが「考えられるように、考える」ことです。ルールを決めたり、書類づくりをする役割ではありません。

最後に、経営者の役割は、「居場所はどういう風にするのか?」、「人事・教育」や、「自立支援とは何か」等を考えたり、トップゴールの設定をちゃんとすること。これは、「考えることを考えられるようにすることを考える」役割です。

そして、役割や、職種に関係なく、全ての職員が同じ山を登れるように共通のトップゴールを設定しています。

トップゴールは、「よりよい人間関係の構築」です。みんなが「同じ山を登っているよね」と言える環境をどうつくるかが大切です。これが、マニュアルではなくミッションで動くチームづくりということです。

加藤さんが日頃、気をつけていることとは?

最後に、加藤さんは、日頃気をつけていることをシェアしました。一部抜粋して紹介します。

「そもそも何をするのか」トップゴールが明白であること。 

 問題を潰すのではなくトップゴールから考える。サブゴールを目的にしない。

例えば、徘徊を問題として捉え、潰そうとする人がいると、どんどんルールで縛られていきます。

一方で、あおいけあのトップゴールは「より良い人間関係の構築」なので、「一緒に行けば、散歩じゃん。むしろ健康にも良いよね。」といった結論が導き出せるのです。そういう風に考えられるチームを作ればいいのです。

また、サブゴールを目的にしないことも大切です。お祭りをするのが目的ではなくて、お祭りを通して何を得るのか。お風呂が入るのが目的ではなく、お風呂に入ることを通してその人とどう信頼関係を構築するのかが本来の目的となります。

ひっぱる能力があってもひっぱらない「自分が自分が!!」タイプは足をひっぱられるし聞きたくない。そしたら能力がないのと同じ。

これが、リーダーシップがとれる人をたくさんつくることに繋がるのかなと思います。

仕事楽しいけど遊びとの境界線が分からなくって申しわけない気持ちになるといいとおもう。

こういう時は、間違っていないと思います。苦しくなっていくのは違います。

「あなたの気持ちがわかるわ!」という人…うそくさいとおもう。「一人称で考える」 

「自分がだったら、どうされたいか?」「自分は、どんな環境が良いか?」といった一人称で考えるということです。

これからの社会がどうなるのかを理解して、専門性や既得権益にしがみつかないで、あたらしい価値観を提示できるか?

さまざまなスキルを身につけるのは良いですが、それを何のために活かすのかが重要です。
これからの社会を知るということが求められます。

自分のしていることを自分の言葉で相手に伝わるように説明ができるか?いま聴いたことを明日には自分の言葉として話せるか?(学ぶことが理解できているか?)

例えば、今日学んだことを、誰かに説明できますか?それが出来ないと、いくら勉強しても本当の意味で学んだことにはなりません。学んだことを、人に説明でき、自分で活かしていくことを繰り返すことが真の学びだと思います。

自分で必要(ベクトルが同じ方向)なチームをつくる。そして責任者であれば逃げずに責任とれ。

人がやろうとすることを否定するのは簡単です。大事なのは、それがどうすれば実現できるのか考え、かつ責任をとることを厭わないということ。

さいごに、

リーダーシップとは、今何をするべきなのかみんなが考えられる環境をつくることです。

そして、ルール化ではなく、ミッション化をちゃんとできることが重要だと考えます。

参加者一人ひとりが自身の仕事について改めて考え直す、貴重な時間を過ごしました。

次回のレポートは、新しい時代をつくるU35のKAIGO LEADERSのピッチを1人ずつ紹介します。

1人目は、福祉環境設計士、株式会社ReDo代表取締役/軽井沢町・診療所と大きな台所があるところ ほっちのロッヂ共同代表 藤岡聡子さんです。

KAIGO LEADERS FORUM 2019写真撮影

近藤 浩紀/Hiroki Kondo(Hiroki Kondo Photography)